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楽園の瑕
(東邪西毒/Ashes of Time(1994年・香港映画)

鑑賞 2004(平成16)年7月3日
書く 2004(平成16)年7月6日記

王家衛(ウォン・カーウァイ)監督が、舞台を中国古代の砂漠地帯に設定し、張國榮(レスリー・チャン)、梁家輝(レオン・カーフェイ)、梁朝偉(トニー・レオン)らを剣士として登場させた異色作。ニヒルな長髪と、スローモーションを多用した斬り合いが売りモノ(?)だが、ストーリーは今ひとつ・・・その上、登場人物の名前と顔が一致しないから、よけいわからん・・・?

『欲望の翼』の第2部は?

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上記『中国映画の全貌2000』によれば、この映画の原作は、中国語圏随一の人気武侠小説作家・金庸の『射鵰英雄傳』とのこと。しかし、王家衛監督は、これをそのまま映画化せず、それを原作中にある脇役の老人である東邪と西毒の設定だけを借り、彼らが若き日にどんな日々を送っていたのかを創作するという形で、これを映画化したとのこと。しかし、その物語は・・・?

原作は金庸の『射鵰英雄傳』

上記『中国映画の全貌2000』によれば、この映画の原作は、中国語圏随一の人気武侠小説作家・金庸の『射鵰英雄傳』とのこと。しかし、王家衛監督は、これをそのまま映画化せず、それを原作中にある脇役の老人である東邪と西毒の設定だけを借り、彼らが若き日にどんな日々を送っていたのかを創作するという形で、これを映画化したとのこと。しかし、その物語は・・・?

そのタイトルは?

この映画は、中国タイトルの『東邪西毒』が、最も正確なもの。なぜなら、「東の変人」という意味の「東邪」が、梁家輝(レオン・カーフェイ)扮する剣士の名前、そして「西の悪人」という意味の「西毒」が、張國榮(レスリー・チャン)扮する、殺しの仲介人の名前で、この2人が主人公だから。これに対し、英語タイトルの『Ashes of Time』は、いわば『時代の灰じん』。つまり、時代から取り残されたものというイメージだが、これがよくわからない。さらに日本語タイトルの『楽園の瑕』もよくわからない。そもそも、「瑕」を「きず」と読める人が何人いるのだろうか?辞書を引いてみると、この「瑕」は、傷や疵と同じような意味だが、そうだとしても、『楽園の瑕』とは、よくわからないタイトル・・・。

 
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何とも不可解な物語

舞台は不明だが、中国の砂漠地帯だから、西方の辺境の地だろう。また、『中国映画の明星』(石子順著・2003年・平凡社)(289頁)によると、時代は南宋の時代らしい。この辺境の地にある村で、西毒は殺しの仲介業をやっており、年に1度、友人の東邪がここを訪れてくる。こんな物語だということが、西毒のナレーションで語られる。そして、この東邪が西毒を訪ねてきた時に、美しい姉妹と何かトラブルをおこすらしいが、そのスト-リーは、よく理解できない。また、西毒を訪ねてくるのは、失明しかかっている剣士の梁朝偉(トニー・レオン)と、洪七(張學友/ジャッキー・チャン)。彼らは、この村にあらわれる馬賊と闘うが、盲目の剣士は死亡し、洪七は重傷を負うことに・・・。西毒が殺しの仲介をやりながら、虚無的に1人生きているのは、かつての恋人の張曼玉(マギー・チャン)と、あるいきさつがあるから。

大筋はこんなストーリー。そして、結構詳しい西毒によるナレーションつきで、物語が進行していくのだが、困るのは、登場人物の誰が誰なのかが、なかなかわからないこと。それはパンフレットが手元にないこともその一因だが、私がいつも言っているように、古代の扮装やメークで各俳優が登場すると、それだけで、誰が誰やら見分けがつかなくなってくるため。

音楽と一体となった、一種のミュージカル映画?

この映画では、常時バックに音楽が流れている。ナレーションが多用され、闘いに向かっていく主人公たちが現われ、そして、迫力のあるアクションシーンの展開というくり返しだが、そのたびに、この流れに応じたバックミュージックが流れてくる。まるで1960年代の「マカロニウェスタン映画」のようなイメージで、それらの曲がうまく画面にマッチしているうえ、カッコいい音楽が多いから、何となくこの映画はミュージカルという感じまで・・・。もっとも何かワンパターンの感じは否定できず、その魅力はもうひとつ・・・。

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この映画の評価は?

『中国映画の全貌2000』によると、この映画は「その野心的かつ静謐なスタイルは、これを単なるオールスター武侠映画だと信じて劇場にやって来た香港の観客にブーイングの嵐を巻き起こしたとも伝えられている」とのこと。他方、「だがその一方で、ヴェネチア映画祭金のオゼッラ賞、香港電影評論学会グランプリを始め、当時のウォン・カーウァイとしては最大級の絶賛に包まれた作品ともなった」とのこと。さらにこの解説の見出しには、「常軌を逸した歳月と製作費をかけたウォン・カーウァイの誇大妄想的怪作。ファン必見!」と書かれている。私はこの「誇大妄想的怪作」という評価に同感!この映画の前作となる(?)、『欲望の翼』(90年)は、最後に登場するギャンブラーの梁朝偉を除いて、張國榮、劉徳華、張學友という3人の男たちと、張曼玉、劉嘉玲という2人の女性たちのそれぞれの個性が、きっちりと表現された青春群像劇として面白かったが、舞台を古代中国の砂漠に移し、主人公たちをニヒル剣士に設定がえしたこの映画はどうも、もうひとつ・・・。


2004(平成16)年7月6日記