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共謀家族(2019年・中国映画)

2021(令和3)年7月21日記

みどころ:『唐人街探偵』シリーズの第3作『唐人街探偵 東京MISSION』(21年)は日本でも大評判だが、本作のような「黒馬之作(ダークホース的作品)があったとは!『万引き家族』(18年)や『パラサイト 半地下の家族』(19年)以上に意味シンなタイトルだが、原題の『误杀』(誤殺)は更に物騒!他方、英題の『Sheep Without a Shepherd』とは一体何?

「映画を1000本も見れば世界にわからないことなどない」と豪語する映画マニアの主人公が、危機の中、「誰も刑務所に行かせない。これからは父さんがみんなを守る」と宣言したことによって“共謀家族”が誕生!他方、「1000の事件を研究すればわからないことなどない」と豪語する警察局長の強引(ハチャメチャ?)な捜査の展開は?

衆人監視の中での死体発掘が本作のハイライトだが、そこに見る、あっと驚く結末は?「探偵モノ」なら勧善懲悪のハッピーエンドでオーケーだが、「黒馬之作」たる本作のラストに見る「Shepherd」(羊飼い)の決断は?

本作は、「2020年東京・中国映画週間」で『誤殺~迷える羊の向かう先~』の題名で上映され、シャオ・ヤン(肖央)が金鶴賞主演男優賞を!また、中国で2019年12月13日に封切られた本作は、封切りの週にいきなり「今週の興行成績」第1位を獲得。その後、翌週封切りの『イップ・マン 完結』(19年)にトップを奪われたものの、2020年が明けた1月半ばに奪い返し、以後3月末まで、両作はトップ争いを繰り広げたらしい。さらに、本作は「2020年映画年間ランキング国産編」で第9位にランクインし、興行収入も約210億円だから、すごい。 私はそんな本作を全く知らず、チラシも見たことがなかった。去る7月1日に中国共産党決党100周年を迎えた中国では、一方では『ウルフ・オブ・ウォー2(戦狼2)』(17年)(『シネマ44』43頁)の後を継ぐような愛国映画に、他方では『唐人街探偵』シリーズの第3作たる『唐人街探偵 東京MISSION』(21年)のようなエンタメ大作に注目が集まっているから、本作を「黒馬之作(ダークホース的作品)」と呼んだサイトもあったそうだが・・・。

原題vs英題どちらもグッド!邦題は?こりゃ興味津々!

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本作の原題は『误杀(誤殺)』だが、英題は『Sheep Without a Shepherd』。そして、邦題は『共謀家族』だ。この邦題は、是枝裕和監督の『万引き家族』(18年)(『シネマ42』10頁)やポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(19年)(『シネマ46』14頁)の強烈なイメージと結び付けようとする戦略だが、原題とも英題とも全然異質なそんな邦題でホントにいいの?もっとも、原題も邦題も、そのタイトルからそれなりの映画(のストーリー)をイメージできるが、『Sheep Without a Shepherd』という英題からイメージできる映画のストーリーとは?「Shepherd」は「羊飼い」あるいはイエス・キリストのことだが・・・。

後述のとおり、本作には誤ってある男を殺してしまうストーリーが登場するから、『誤殺』はピッタリ!また、警察の追及から逃れるため、主人公の4人家族が必死で完全犯罪のストーリーを共謀するから、『共謀家族』というタイトルもピッタリだ。それに対して、英題がなぜ『Sheep Without a Shepherd』とされたのかはわからないが、導入部には、横暴な警察官が威嚇で羊を射殺してしまうシークエンスが登場するので、そこに注目!しかし、そうだとしても、なぜそんな英題になっているの?

私は、ずっとそれを考えながら観ていたが、あるシークエンスの展開が私の予想通りだったので、なるほど、なるほど・・・。

舞台は?4人家族は?なぜ脱獄シーンが?

本作はれっきとした中国映画だし、『共謀家族』と邦題された4人家族もれっきとした中国人だが、なぜか、舞台は東南アジアのタイ。幼き日に中国からこの地に移り住んできたリー・ウェイジエ(李維傑)(肖央(シャオ・ヤン))は、インターネット回線会社を営みながら、妻のアユー(阿玉)(譚卓(タン・ジュオ))、高校生の娘ピンピン(平平)(許文姗)、まだ幼い妹のアンアン(安安)(張熙然)と共に4人家族で平穏な生活を送っていた。目下の悩みは、反抗期になったピンピンがあまり口をきいてくれないことだが、『ショーシャンクの空に』(94年)が大好きなリーは、暇さえあれば事務所で映画ばかり見ている映画マニアだった。

『万引き家族』や『パラサイト 半地下の家族』のように、導入部はそんな4人家族の自己紹介から入るのが筋だが、なぜか本作冒頭は、刑務所に入っているリーが独房のトイレをこじ開け、汚水が流れる排水路を通り、外に運搬される木棺の中に隠れて脱獄するシークエンスになる。ところが、木棺は土の中に埋められているようだし、マッチを擦ってみると、隣には死体が。驚いたリーは、思わず悲鳴を上げたが・・・。

これは現実ではなく、映画マニアのリーが食堂の主人ソン(頌恩)(チョン・プイ(秦沛))を相手に語る映画ネタのおしゃべりだ。「脱獄モノ」が大好きなら、そのベスト作は、ハリウッドの大スターが共演した『大脱走』(63年)とスティーブ・マックイーン主演の『パピヨン』(73年)だが、リーが一番好きなのは『ショーシャンクの空に』だ。そんな彼は、「映画を1000本も見れば世界にわからないことなどない」と豪語していたが・・・。

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警察局長は女性!タイ警察の体質は?その家族は?

一方に「映画を1000本見れば世界にわからないことなどない」と豪語する男がいれば、他方、「1000の事件を研究すればわからないことなどない」と豪語する女の警察局長が登場するのが本作のミソだ。住民に顔なじみの警官サンクン(桑坤)(施名帅)は横暴で、露骨に賄賂を要求する警官だから、みんなに嫌われていた。ある日、住民ともめ事を起こしたサンクンは、リーたちの目の前でいきなり拳銃を抜いたからビックリ。さすがに相手を撃つことはなかったが、拳銃音の後には、1匹のヤギが血を流しながら倒れていたから、ビックリ。人間でなくヤギなら、見せしめ的に殺してもいいの?そんなサンクンを尻目に、ある殺人事件の容疑者を尋問し、犯罪トリックを暴いて見せたのが警察局長のラーウェン(拉韫)(陳冲(ジョアン・チェン))。「1000の事件を研究すればわからないことなどない」と豪語する彼女だが、手段を選ばない彼女のやり方は如何なもの?たまに成功することはあっても、いつかヤバいことになるのでは?

ラーウェンの夫は、市長選挙に出馬している議員デゥポン(都彭)(姜皓文(フィリップ・キョン))。その姿を見ていると、表の顔と裏の顔の違いが顕著だ。最有力候補になっている彼は、目下選挙活動に忙く、めったに自宅で家族と食事をする時間もないから、1人息子のスーチャット(素察)(辺天揚)はわがまま放題に育ったらしい。久しぶりに自宅で妻と話をしたデゥポンは、息子に車まで買ってやった妻に対して、「わがまま放題に育てたお前が悪い」と責めていたが、そんな風景を見ていると、こちらの家族でも父親と息子の関係はうまくいっていないようだ。もちろん、しがないインターネット回線の会社をやっているリーの家族と、市会議員と警察局長のデゥポンとラーウェン家族の間に、接点など今は何もないのだが・・・。

 
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サマーキャンプは危険がいっぱい!その顛末は?

本作でラーウェン役を演じたのは『戦場の花』(79年)に10代の時に出演して高い評価を受けた女優ジョアン・チェン。その後、『ジャスミンの花開く(茉莉花開)』(04年)(『シネマ17』192頁)、『胡同(フートン)のひまわり(向日葵)』(05年)(『シネマ17』415頁)、『ラスト、コーション(色、戒)』(07年)(『シネマ17』226頁)、『四川のうた(二十四城記)』(08年)(『シネマ34』264頁)等にも出演しているそうだが、どう見ても私には美人女優とは思えない。他方、本作にピンピン役で出演している許文珊(オードリー・ホイ)はその実の娘だそうだが、こちらは母親と違って(?)かなりの美人。せっかく学校からサマーキャンプに行けるエリートとして選ばれたのに、父親がその費用を出せないことにむくれていたが、喧嘩した夜、父親がこっそりそれを用意してくれたから、ピンピンは喜んでサマーキャンプへ。ところが、そこでピンピンに目を付けた不良のスーチャットがピンピンに近づき、言葉巧みに睡眠薬入りの酒を飲ませたからアレレ・・・?

その後の展開がスクリーン上で描かれることはないが、その後自宅に戻ったピンピンが部屋に閉じこもってしまう情景を見ると、映画のモンタージュ効果(ショットをつなげて、一つの意味のある映像になるという理論)(『映画検定公式テクストブック』201頁)によって、ピンピンがスーチャット達に痛い目にあわされた(レイプされた)ことがはっきりわかる。父親は鈍感だが、母親はそんな娘の様子にピンときたようで、優しく「何かあったら話して」と語りかけると・・・?

“誤殺”が発生!死体処理は?ここに共謀家族が誕生!

若いくせに、スーチャットのピンピンへの脅し方は巧妙で、「今夜は楽しもう。」、「もし、時間通りに来なければ、動画をネットにあげるから」と言われると、うぶで何の対抗策も持たないピンピンは?指定された時刻に指定された場所に行くと、そこにはピンピンが待っていたから、スーチャットはウハウハ。そのままコトに及ぼうとしたが、そこに母親がいたからビックリ。母親は、「あなたが誰の息子でも、娘に手を出したら許さない」とスーチャットに立ち向かったが、所詮、力では若い男の方が上。そんな状況下、ピンピンがスーチャットのスマホを奪おうと、近くにあった鍬を掴み、振り下ろすから、さあ大変だ。

そんな“誤殺”が起きたのは、自宅の裏が墓場になっているリーの自宅の物置だ。地元の警察は信用できないため警察に通報せず、スーチャットの死体を自分で始末すると決意したアユーは、ピンピンとともに何とか墓場を掘り起こしてスーチャットの死体を棺の中に入れたから一安心!?

他方、その日たまたま遠くへ出張していたリーは、趣味のムエタイを楽しんでいたが、自宅に何度電話しても出ないため、心配になってタクシーで戻ってみると、アレレ、家族は大変な事態に。さあ、リーは、そんな状況下どうするの?そこでのリーのセリフは、「誰も刑務所に行かせない。これからは父さんがみんなを守る」だから、こうなると『共謀家族』というタイトルがまさにピッタリ!そこで気になるのは、ただならぬ気配を感じて起き出した幼いアンアンが、アユーやピンピンの行動の一部を目撃していたことだが、さて、そこで誕生した“共謀家族”によるその後の共謀は?

アリバイ偽装は?映画の知識を駆使したそのレベルは?

去る7月10日に観た中国映画の大ヒット作『唐人街探偵 東京MISSION』の、ラストに見る本格的推理は、見事なレベルになっていた。それに対して、本作中盤は、アユーとピンピンが自宅の墓地に埋めてしまったスーチャットの死体を如何に隠し通すの?そのために如何なる偽装とアリバイ工作をするのか?それをテーマに、リーが大奮闘を続けるので、それに注目!

導入部を見る限り、リーはインターネット回線の会社の経営者としてしっかりした技量を持っているようだし、その仕事ぶりも人柄も地域のみんなに好かれていたようだが、本作中盤で見せる、リーの八面六臂の活躍(偽装工作)は、「彼にはこんな素晴らしい隠れた才能があったのか」と感服させられるレベルのものだから、それに注目!一方で、スーチャットの車の処分を終えたリーは、他方で週末の仕事を兼ねて久しぶりの家族旅行を計画し、それを実行するが、それは何のため?もちろんそれは偽装工作のためだが、そこではどんな仕掛けを?

他方、偽装工作とは別に対策しなければならないのは、警察の尋問に対する家族たちの供述の在り方。どこまで口裏合わせをすればいいの?矛盾点が出てきた時はどうすればいいの?高校生のピンピンは準備すればしっかり対応できるとしても、幼いアンアンは尋問経験豊富な警察の追及にどこまで耐えられるの?そんな心配でいっぱいだが、そこは「映画を1000本見れば世界にわからないことなどない」と豪語していたリーのこと、本作中盤では、リーたち「共謀家族」のレベルの高さをタップリ楽しみたい!

共謀は大成功!それも束の間、衆人監視下の死体発掘は

リーの偽装工作にもかかわらず、湖に遺棄したスーチャットの車は発見できたが、行方不明になっているスーチャットの死体はどうしても発見できなかったから、ラーウェンは次第に追い詰められていくことに。こうなれば、幼いアンアンを含む4人家族を逮捕して、尋問し、供述の矛盾点を追求する他なし。そんなラーウェンの決断によって、4人家族が揃って逮捕され、矛盾点を探るべく、それぞれ個別に尋問されることになったが、そんな風景は、民主警察国家の日本では考えられないものだ。しかし、中国はもちろん、タイでもそれくらいは当たり前!?

7月18日には、全勝同士で、横綱白鵬と大関照ノ富士の千秋楽決戦を迎えたが、そのギリギリの攻防戦で勝利したのは、経験豊かな白鵬だった。それと同じように、いくらリーが知能の限りを尽くした偽装工作を施しても、所詮すべてを矛盾なく説明するのは無理。まして、一度は釈放された4人家族も、「映画を1000本見れば世界にわからないことなどない」と豪語していたリーがそれまでに鑑賞した犯罪映画の数々を精査されてみると・・・?その結果、いったん釈放されていた4人家族は再度逮捕されたうえ、ギリギリの脅迫めいた自白を求められたアンアンが、ついにあの日、目にした光景を供述したから、これにて共謀家族はアウトに!?

しかして、一度はまんまと大成功を収めていた共謀家族の共謀も、アンアンの自供から外堀を埋められ、ついに今日は衆人が監視する中で、警察による死体発掘作業が始まることに。そこには、もちろん4人家族も立ち会っていたが、アユーとピンピンは自らの手で、あの墓地の、あの棺を掘り起こし、その中にスーチャットの死体を入れたのだから、それが掘り起こされれば、その中から今はかなり腐敗しているスーチャットの死体が・・・。

私たち観客は、現場に集まった共謀家族やタイの市民たちとともにそんなスクリーン上を食い入るように見入ったが、さあ、開けてビックリ玉手箱!棺の中には一体何が?なるほど、なるほど、ここであのエピソードが!

どこか異色の中国映画!原型はインド!監督は台湾系!

前述のように、本作は舞台がタイに設定されているから、リーたち4人家族は“移民系中国人”。リーがどんな宗教を信じようと自由だが、スクリーン上には、リーが托鉢僧に深々とお辞儀をし、お布施をするシークエンスが2度も登場する。これは、普通の中国映画にはない風景だ。

また、本作はまず導入部での脱獄シーンにビックリだが、それに続いて、タイに移住して生活している中国人の4人家族の肩身の狭さ(=差別)が強調されている。その対極にあるのが、町の中で威張り散らしているタイ人警官のサンクンだが、その頂点に君臨する地区警察局長ラーウェンの独裁ぶりも顕著だ。今や「米国に追いつけ!追い越せ!」状態になっている中国映画は、全世界に発信を続けており、『唐人街探偵』シリーズ第3作では「東京MISSION」達成のために堂々と東京に乗り込んでいた。ところが、本作では、米国で生活する中国人が今なお肩身の狭い思いをしているのと同じように(?)、タイという異国で差別を受けながら生活している中国人家族を主人公にしているので、それに注目!

本作が長編デビュー作になったサム・クァー(柯汶利)監督は、私が近時注目している『凱里ブルース(路辺野餐)』(15年)(『シネマ46』190頁)と『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ(地球最后的夜晩)』(18年)(『シネマ46』194頁)のビー・ガン(毕贛)監督や『象は静かに座っている(大象席地而坐)』(18年)(『シネマ46』201頁)のフー・ボー(胡波)監督より少し先輩の、1985年生まれの若手だが、マレーシアのペナン出身で、台湾の台北国立芸術大学を卒業して映画界に飛び込んだそうだ。そんな彼は、2020年にはシャオ・ヤンも出演したTVシリーズ版『唐人街探案』の4エピソードを監督しているからかなりの注目株だが、やはり純粋の中国大陸系ではなく、マレーシア系であり、また台湾系だ。

そんなことを考えながらパンフレットを読んでいると、何と本作には原作になった2本のインド映画があるそうだ。それは、①南インドのケーララ州を舞台にしたマラヤーラム語映画の『Drishyam(ドリシャム/光景)』(13年)と、②アジャイ・デーウガン主演のヒンディー語映画の『ビジョン』(15年)の2本。そして、本作は、『Drishyam』の正式リメイク作品としてウィキペディアのクレジットにも、監督・脚本のジートゥ・ジョセフ監督の名前が挙がっているそうだ。興味深いのは、そのリメイクに際してサム・クァー監督が本作でさまざまな改変を施していること。その詳細は、松岡環(アジア映画研究者)のコラム「高度なサスペンスと名演技が織り上げる驚愕の物語」を読めばよくわかるが、本作を鑑賞するについては、“共謀家族”になってしまった中国人家族の本拠地をタイに設定したことの意味をしっかり確認したい。そうすれば、なるほど、あのお布施のシークエンスにも納得だし、悪徳警官のサンクンが羊を射殺するシーンにも納得!

勧善懲悪のハッピーエンドでOK?羊飼い最後の決断は

「敵を欺くには、まず味方から欺け!」。そんな金言をどう理解するかは難しい。主君・浅野内匠頭の仇討ちを決心した家老の大石内蔵助は、そんな戦略で多くの味方を欺くことによって、結果的に仇討ちに成功したが、そんなことができる中国人は、諸葛孔明か曹操くらい?私はそう思っていたが、本作のクライマックスはそんなシークエンスになる(?)ので、それに注目!その結果、一方では、これまでさんざん警察にいじめられてきたリーたち4人家族は一躍英雄になったものの、他方では、ラーウェン局長の威信は崩壊してしまったうえ、市長を目指していたデゥポンも失脚してしまうことに。

スーチャットの死体は見つからないままだから、彼はきっとどこかに失踪したのだろう。世間の目はそんな風に収まっていったが、子供に対する母親の愛は、スーチャットからレイプされたピンピンの母親のアユーも、失踪してしまったスーチャットの母親ラーウェンも同じだ。しかして、本作はメインストーリーがあっと驚く結末を迎えて終了した後、さらに、すべてを失った市長候補のデゥポンと警察局長のラーウェンがリーに対して「真相を教えてほしい」とすがるシークエンスになるので、それに注目!

あの時、急遽自宅に戻ったリーは、アユーとピンピンに対して「誰も刑務所に行かせない。これからは父さんがみんなを守る」と宣言し、結果的にそれを完全に成し遂げたから、彼は「Sheep Without a Shepherd」の“羊飼い”としての重責を全うしたことになる。もちろん、これは“共謀家族”が総力を結集したことによるものだが、そこにはリーの“羊飼い”としての様々な苦悩があったはずだ。今、デゥポンとラーウェンからの“涙の訴え”と“心の叫び”を聞かされると、リーのその苦悩はピークに。さあ、そこに見る“羊飼い”たるリーの最後の決断は?

『唐人街探偵 東京MISSION』は「探偵モノ」だから、密室殺人事件のトリックを見破り、真犯人を挙げればそれでハッピーエンドになる。しかし、本作のような“共謀家族”が勧善懲悪のハッピーエンドで終わっていいの?そんな本作の結末を考えていると、やっぱりサム・クァー監督は大陸系ではなく、マレーシア系!台湾系!

2021(令和3)年7月21日記